医療事故の原因究明と再発防止に主眼を置いた「事故調」はできるのか?

医療事故の原因、今後の教訓となる点などを本格的に調査する制度として、厚生労働省は2008年6月に「医療安全調査委員会設置法案(仮称)」のたたき台を発表しました。鉄道や航空機の事故調査委員会(現・運輸安全委員会)と似た構想なので、「医療版事故調」とも呼ばれています。

この案では、中央と各地方ブロックに独立機関として調査委員会を設置します。当面は死亡事故に限定して、医療機関からの届け出を義務づけ、遺族からも調査を要求できるようにします。

解剖、調査、評価分析などは、モデル事業と同じですが、立ち入り調査や書類の提出要求などの権限を強め、再発防止策も報告書に盛り込みます。

また警察に通知できるケースとして、@故意の疑い、A標準的な医療から著しく逸脱した医療の疑い、Bカルテ等の改竄や記録の隠蔽、C過去に類似の事故を繰り返した疑い…などを挙げています。

責任追及ではなく、原因究明と再発防止に主眼を置いており、報告書をベースにして民事紛争の早期解決や行政処分などが進めば、訴訟や刑事事件に至るケースは減少し、医療側の負担も軽くなるという考えに立っているからです。

しかし医療界の足並みは揃っていません。日本外科学会のようにほぼ賛成の学会もある一方で、一部の医師からは反対意見が出ています。特に抵抗が強いのは刑事捜査に繋がる可能性で、どんな医療行為も刑事責任の対象にすべきではないという意見も出ています。

政権与党である民主党(2011年10月現在)には別の案もあります。大きな違いは医療機関内の委員会がまず調査を行い、遺族らが納得できない場合は都道府県の医療安全センターが調査すること。

調査対象は高度の障害まで広げていますが、原因究明より、話し合いによる紛争防止を重視しています。この案には、事故が起きた医療機関が行う「身内の調査」で、患者や遺族の信頼を本当に得られるのかという問題があります。

政権が安定しないこともあり、調査機関の検討は最近は停滞気味です。しかし患者側も医療側の主な学界・団体も、その必要性に関しては意見が一致しています。冷静に論点を整理し、解決に役立つ調査機関の早期の設置が望まれています。

 
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