医療過誤で医師が追求される法的責任には3つの種類があります

患者や家族に償うだけではいけません

不幸にして医療過誤を起こしてしまった場合、新聞やテレビ等のマスコミで大きく報道されます。開業医ならば、クリニックの評判は一気に地に落ちますので、閉鎖を余儀なくされることもあります。

医師としては、世間からの非難は大変つらいものがありますが、これはあくまでも「社会的責任」の追求であって、法的には民事責任、刑事責任、行政責任が問われることになります。

民事責任:民事上の損害賠償責任のことです。責任を果たすためには、必ずしも訴訟判決を経る必要はなく、当事者間で話し合いの場を持ち処理することもできます。

法的性質には、「債務履行責任」と「不法行為責任」があります。ひとつめの債務不履行責任とは、債務者が契約によって課せられた義務を全うしないために発生する責任のことです。医療過誤の場合、診療契約によって、医療施設の開設者が患者に負う債務を履行しなかったことになります。

この責任は、契約当事者間(医療施設の開設者と患者)にしか発生しませんので、医療機関に雇用される医師は、患者に対してこの責任を直接負いません。

もうひとつの不法行為責任は、過失によって違法な行為を行って他人に損害を発生させたことにより生じる責任です。原則として、金銭による損害賠償となりますが、契約関係は必要としないので、先に述べた債務不履行責任とは異なり、医療に携わった現場の医師も責任を負うことになります。

実際の医療過誤をめぐる訴訟では、この債務不履行責任と不法行為責任の一方または両方が追求される可能性があるため、@医療機関の開設者だけが被告となるケース、A開設者と医療従事者(医師・看護師等)、B医療従事者だけが被告になる3つのケースが考えられます。TOPページでも触れたのですが、近年の訴訟傾向としては、患者側が賠償金の満額を確実に受け取るために、医療機関の開設者に加えて、勤務医も共同被告として訴えるケースが増えてきています

刑事責任:刑罰法規に規定されている犯罪を行ったため、刑罰を課せられる責任です。ここでは刑法211条1項前段で規定されている「業務上過失致死罪」が問題となりますが、医療過誤では、よほど悪質でない限り、刑事裁判になることはありませんし、そこまで発展したとしても、罰金刑か執行猶予が言い渡されるケースががほとんどです。

なお、手術の際に産婦を死亡させたとして、産科医が業務上過失致死と医師法違反の容疑で逮捕された「福島県立大野病院事件」が有名ですが、この事件では逮捕自体に大きな疑問があるというのが医療側の一貫したコンセンサスとなっており、実際に産科医は無罪が確定しています(2008年)。

行政責任:自動車事故を起こしたドライバーが免停・取り消しなどの行政責任を負うことがありますが、医療過誤の場合も同様に医師は行政責任が追及されることがあります。医師法では、@罰金以上の刑を課せられた場合、A医事に関して犯罪、不正行為があった場合、B医師の品位を損ねた場合、のいずれかに該当した場合、厚生労働大臣が「戒告」「3年以内の医業停止」「免許の取り消し」の処分を行なうことができる旨が規定されています。

ただし、処分の一切を厚生労働大臣が独断で行えるということではなく、医師法では、諮問機関である「医道審議会」の意見を聴いてから、処分を行うこととしています。また、処分を受ける医療側には弁明の機会が与えられています。

なお、刑事責任に問われたからといって、必ずしも行政処分に該当するというわけではありません。逆に、刑事責任に問われなかったとしても、行政責任を問われたケースもあります。

 
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